スコープ販促創造研究所

データで読み解く、天候と客数の「意外な関係」 〜オフィス街と住宅街、気象条件で変わる「生活者の行動心理」〜

データで読み解く、天候と客数の「意外な関係」 〜オフィス街と住宅街、気象条件で変わる「生活者の行動心理」〜

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「雨の日は客足が遠のく」「寒くなれば、外出は減る」。これらは長年、流通小売の現場において、ある種の実感値を伴った「定説」として語られてきました。
しかし、都内のコンビニエンスストアにおける2年間(731日間)の人流データと気象データを掛け合わせ、改めて詳細に分析してみると、必ずしもその定説通りではない興味深い動きが見えてきました。
今回は、データ分析を通じて浮かび上がってきた「天候」と「購買行動」の関係性を生活者の心理状況という視点から読み解いてみたいと思います。

1. 寒さで〇〇が「増える」オフィス街、「減る」住宅街

まず、冬場のデータから見ていきます。「今日は寒すぎて外に出たくない」と感じるような日は、やはり客数は減るのでしょうか。

住宅街のコンビニデータを見ると、体感温度が氷点下になるような厳しい寒さの平日には、来訪者数が平均と比較して5.0%減少していました。これは、一般的な感覚と一致する結果です。

ところが、オフィス街のデータに目を向けると、少し異なる動きが確認されました。同じ寒さの日であるにもかかわらず、オフィス街のコンビニ来訪者数は逆に2.1%増加していたのです。

▼図表1:厳しい寒さの日の客数変化(対平日平均)

通常、オフィスワーカーはランチタイムに少し足を伸ばして飲食店へ向かう選択肢も持っています。しかし、凍えるような寒さの日には、「遠くの店まで歩くこと」自体が心理的なハードルになります。「ビルの外には出たくない」「一番近い場所で済ませたい」という意識が働き、結果としてビル直下や至近距離にあるコンビニが選ばれやすくなっているのではないでしょうか。

この状態は移動の負担を減らす「近場で済ますモード」と定義できそうです。オフィス街において、寒さはマイナス要因ではなく、近隣店舗への囲い込みの機会になり得るのかもしれません。

2. 現場の肌感覚は正しいか?雨の日の客数変化

「雨の日はオフィス街の店舗は意外と忙しい」という話を耳にすることがあります。データはこの感覚を裏付けているでしょうか。

実際、「雨の日」に絞った検証データ(平日:晴天時と比較した雨天時の変化)を見てみると、両エリアとも客数はマイナスとなってはいますが、その「落ち込み幅」には明確な差が見られました。

▼図表2:雨天時の客数変化(対晴天時)

オフィス街の減少率(-4.9%)に対し、住宅街はその倍近く(-8.6%)も客数が減少しています。

これは、住宅街では「雨だから外出そのものをやめる」傾向が強いのに対し、オフィス街では「雨だから遠くのお店(外食・中食含む)までは行かず、近場のコンビニで済ませる」という層が一定数存在し、客数の落ち込みを下支えしている証拠と言えるでしょう。「雨の日は(住宅街に比べて)人が来る」という現場の肌感覚は、相対的な比較において正しいと言えそうです。

3. 暑さには「限界点」がある

次に、夏場のデータです。「気温が上がれば、飲料などが売れて客数も増える」と考えられがちですが、これにも注意が必要なようです。

不快指数が80を超える、あるいは35℃以上の猛暑日。この条件下では、オフィス街の来訪者数は8.2%も大幅に減少しました。

▼図表3:猛暑日の客数変化(対平日平均)

これは、人間が社会的な活動よりも、涼しい室内に留まることを優先する、いわば「ひきこもりモード」に切り替わっている可能性を示唆しています。

「暖かければ暖かいほど良い」のではなく、人間には活動の限界点が存在します。このラインを超えた猛暑日には、販促で無理に客を呼ぶことよりも、オフィス内に留まっている人々へどうアプローチするか(デリバリーや事前のまとめ買い提案など)へと思考を切り替える必要があるかもしれません。

4. 気温の「変化」が人を動かす

今回の分析の中で特に興味深かったのは、前日比で気温が+5℃以上急上昇した日のデータです。

この条件下では、気候が安定している日と比較して、オフィス街では4.8%の純粋な需要増が確認されました。一方で、住宅街では逆に6.5%も減少しています。これは、オフィス街では「暖かくなったから外に出よう」という需要喚起が起きる一方、住宅街では「天気が良いから遠出しよう」と、コンビニ以外の選択肢へ客が流出するためと考えられます。

▼図表4:気温急上昇時の客数変化(対気候安定日)

出典元:Location AI㈱ Location AI Platform

また、「花粉が猛烈に飛散する日」であっても、客数は減るどころか微増(オフィス街で+4.2%)していました。

出典元:Location AI㈱ Location AI Platform

これは、花粉が大量に飛散する日は、得てして「晴れて暖かい日」であることと関係していそうです。花粉という不快な要因よりも「暖かくて天気が良い」という外出意欲を刺激するプラスの条件のほうが、行動決定においては優位に働いている可能性が高いといえそうです。

生活者は天気そのものだけでなく、気温の変化やそれに伴う移動の負担感を無意識のうちに計算して行動しているのかもしれません。

5. 立地によるリスクの違いと、求められる予測精度

最後に、店舗運営の視点からデータを整理してみましょう。各店舗の日々の客数のブレ幅(変動係数)を算出し、並べたものが以下の図表です。

出典元:Location AI㈱ Location AI Platform

青色のバー(住宅街)は数値が低く、日々の客数が比較的安定していることを示しています。対して、オレンジ色のバー(オフィス街)は数値が高く、日によって客数が大きく変動する傾向にあります。

オフィス街の店舗は、平日と休日の差が大きいだけでなく、これまで見てきたような「雨の日」や「猛暑日」といった環境要因による変動をダイレクトに受けやすい構造にあります。住宅街は「安定」していますが、オフィス街は天候変化を味方につけ、緻密な予測でチャンスを掴み取らなければならない、より高度な運営判断が求められる環境といえるでしょう。

6. 今回の分析視点:気象データを「人間の感覚」で捉え直す

今回の分析にあたり、気温や降水量といった物理データをそのまま使うのではなく、一度「人間の感覚(マインドセット)」に置き換える処理を行いました。

▼図表7:分析に使用した「消費者マインドセット」の構成比

出典元:Location AI㈱ Location AI Platform

Type I:「お出かけ」モード(快晴・快適):ポジティブに活動する日

Type II:「要対策」モード(雨/花粉・ストレス):傘やマスクで防御しつつ活動する日

Type III:「ひきこもり」モード(激暑・動かない):暑すぎて活動を停止する日

Type IV:「近場で済ます」モード(極寒・移動最小化):寒すぎて遠出を諦める日

Type V:「変化に対応」モード(気温乱高下):急激な変化への適応に追われる日

単に「気温」を見るのではなく、その数値を生活者がどう感じ、どう動くかという「感覚」を中心に捉え直してみる。気象データを「物理」から「感覚」のフィルターを通して見ることで、これまでのデータだけでは捉えきれなかった生活者の行動の背景にある心理に、より近づくことができるのではないでしょうか。

【調査概要】

■調査期間:2024年1月1日〜2025年12月31日(731日間)

■対象店舗:都内コンビニエンスストア10店舗(オフィス街5店舗、住宅街5店舗)

■使用データ:気象庁過去気象データ、LAP(Location AI Platform)人流解析データ、東京都保健医療局データ 出典元:Location AI㈱ Location AI Platform

 

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