『販促会議』2月号に掲載された鼎談「ショッパーインサイト2026大予測」。 後編では販促創研が考える「販促5.0」理論から導き出した、未来の販促のあるべき姿と店舗像について熱い議論が交わされました。
買い物ストレスをゼロにし、最適解をサポートする。 「買い続けたくなる店」に求められる、売り場の販促設計とは【後編】
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(右から)
スコープ販促創造研究所 /今井 洋
スコープ販促創造研究所 /多田みゆき
スコープ販促創造研究所 /木賀 啓介
生成AIの登場で、店舗と生活者の関係はどう変わる?
多田:生成AIの登場によって、ECサイトはもちろんのことリアル店舗でも生成AIを活用する販促が必要になってきましたね。買い物の現場でどのように活用していくか、もう少し話していければと思います。
スコープ販促創造研究所 /多田みゆき
1年間を52週に分け、データやトレンド分析に基づいた1週間ごとの販促を企画する“52週販促”企画を10年ほど担当し、大手流通小売のチラシ販促やメーカークライアント業務に携わる。近年は52週販促のスキームも用いながら、歳時ごとの市場動向予測を発信し、販売・購買両側からのモチベーション開発も行っている。
木賀:生成AIはパーソナライズしてくれるので便利なものではありますが、現時点では効率を求める傾向があります。そこには買い物の楽しさに繋がる意外性や新しい発見がありません。いまのところ、偶然の出会いはリアル店舗でなければ演出できないといえそうです。生成AIとリアル店舗のタッグの組み方として「誰が、リコメンドするのか」は有効なのではないでしょうか。所謂、バイヤーの目利きです。「何が」ではなく「誰が」セレクトした商品なのかが重要になってきます。実際の店舗でも「誰々セレクトの野菜」としてリコメンドし、それを楽しむ方が増えていますから。今後、バイヤーの特徴や個性が消費者に伝わるようになれば、バイヤー自体がキャラクターナイズされていくかもしれませんね。
スコープ販促創造研究所 /木賀 啓介
大手住宅設備メーカーで商品ブランド運営に約8年間従事後、様々なブランドの戦略を購買の最前線で実践したいと考え2002年にスコープ入社。菓子、嗜好飲料など大手メーカーや大手流通小売の販促戦略や企画を手掛ける。
今井:それはスーパーでありながら、個人商店に近い買い物の仕方ですね。
スコープ販促創造研究所 /今井 洋
大手流通小売・メーカー・官公庁等様々なクライアントのマーケティングリサーチとプランニングを担当。近年はソーシャルデータを活用した生活者インサイト分析にも注力。
木賀:たしかに、個人商店では売り場に立っている人が商品を仕入れていることが多く、昔ながらの商店ではお客さんが「今日は何がある?」と聞いて、家族構成などを加味しながらその日のおすすめを教えてもらうことがありますよね。それと同じことが、効率化・分業化されたスーパーマーケットでも起きてくると考えています。 今は、ビッグデータとAIやIoTをなどの先端技術を活用したパーソナライズが進む「販促5.0」の時代と言われていますが、チェーンストアが生まれる前の個人商店が主流だったころを便宜上「販促0」の時代とすると、結局そこに戻っていくのではないかと思うんです。
多田:技術はすごく進化していますよね。でもそれを使うソフトの部分は変わらない気がします。
木賀:そうですね。ただ、規模がまったく違ってきています。そして、今は生活者もSNSによって情報の発信者になり、場合によっては生産者にもなることができます。家庭菜園を会社化して、農家になりたい人を支援するサービスがあるのですが、自分が作った農産物を売ることができたら、それは生産者です。同じ売り手であり、買い手でもある関係値は、店と個人が対等な関係であることを示しています。
多田:今は働き方も自由なので、副業として気軽に小規模な販売からスタートして、採算がとれるようになったら店舗化、事業化することも可能です。生活者が売り手になることは、難しくなくなっていますよね。それだけに、さまざまな商品が生まれている状況です。
木賀:そういった商品を見つける楽しさも出てきます。スーパーマーケットがそれらを仕入れて紹介することも可能ですし、個人の作った焼き菓子を集めて売るといったキュレーションに特化した店舗があってもいいのではないでしょうか。
今井:リアル店舗でそういうことを実現するには、まだ少し時間がかかる気はしますが、売り手と買い手の関係性が変わってきているのは確かです。一方で、店舗にとっては、売り上げアップが命題である点も確かです。今の新しくなった関係性を長期的に育てて、売り上げに結びつけていく視点は必要だと思います。
消費者が何度も訪れたくなる「幸せな売場」とは?
木賀:キュレーションに特化して個人の商品などを紹介する店舗や、モールのようにスーパーマーケットの半分が個人商店のような店舗、そういったことをイベントとして開催する店舗など、こだわりがあり、行くたびにおもしろさや発見がある店舗は何度も訪れたくなると思います。卵を買うだけならどこでもいいけれど、個人のこだわりの焼き菓子を仕入れているからあのスーパーに行ってみようといった感覚です。どのように個性を打ち出すかはさまざまな方法がありますが、立地や客層によって店舗の個性を設計していく必要があります。
今井:生活者が望む買い物の仕方に寄り添った支援があると、その店舗に通いたくなるのではないでしょうか。買い物プランに役立つ情報や、こういう買い物をすると予算内に収まるといった、その人なりの買い方にフィットした情報を提示してあげることなどです。とても地道な方法ですが、その積み重ねが満足度を高めるでしょう。技術が進歩しデジタルツールも数多くありますので、やりやすいと思います。
木賀:確かに、年金で暮らす方々の中には日々の生活に余裕がない人もいて、楽しい買い物どころではないという意見もあります。そういった方々に寄り添うことにも、大きな存在価値がありますし、実際にはそちらのほうが、需要が高いかもしれません。地域の生活者に頼られる店舗になる。それも、毎日通ってもらえる店舗です。
多田:どのような店舗や商品が今の消費者に求められているのか。そこは情報を収集し、分析、検証していくことが必要です。スコープでは、「毎日のお買い物“ワクワク”“モヤモヤ”研究会」というコミュニティサイトを運営し、自然発生的に出た生活者の生の声を拾い上げる活動を通して生活者のインサイトを追究しています。継続的に見ていくことで何度も通いたくなる売り場が見えてくるのではないかと考えています。
木賀:生活者視点で、どういう買い物トリガーが増えてきているのかも調査し続ける必要がありますね。あとは、販促の業界にある、いわゆる“常識”に、「それは本当なのか」とメスを入れていくことにも挑戦したいですね。多角的な視点で「買い物の幸せ」「買い続けたくなる売り場」を研究していくことが大切です。
販促創造研究所が描く未来の店舗像とは
木賀:先ほどの話にもありましたが、将来的に店舗は大手メーカーだけではなく、小規模な企業、メーカーの個性的な商品を扱うことも増えてくる可能性があります。どのような商品を扱うかは、地域の客層やその店舗の個性次第となりますが、そこを生かした店舗設計が求められてくるのではないでしょうか。そしてそういった店舗は、地域密着型の地場の店が多い印象がありますね。
今井:未来の店舗はまだ漠然としていますが、生活を豊かに発展させられるような店舗でしょうか。物価高が続く中、生活者は静かに諦めてしまっています。リアル店舗は、その諦めをそのままにせずに、寄り添えるような存在になってほしいんですよね。リアルだからこそ、人の体温とかテンションみたいなものがきちんと感じられる売り場です。例えば、お米なら「安いお米を用意しました」だけではなく、「こうすれば美味しくなりますよ」と細かな部分に寄り添える販促です。生活者の悩みを理解している、パートナーのような店舗が理想なのかもしれません。
多田:生活者と店舗の関係性が変わっていくのと同じく、メーカーと小売りの関係性も変わってきています。個人や小規模な企業の商品が流通しやすくなった今、地方の小さなメーカーにとって、大手スーパーの店舗に置いてもらえることが良いことだという時代は終わりました。逆に、小さくとも実力あるメーカーに「このお店になら置いてもらおう」と選ばれる店舗にならなくてはなりません。その時に選ばれる店舗とは、消費者が商品を選択する楽しさに共感を持ち、地域における店舗の役割を理解した売り方を実践しているところだと思います。大きな小売になればなるほど、オールターゲットと言わざるを得ない難しさもありますが、覚悟を決めて個性を出したいものです。そしてなにより作り手買い手双方に対して誠実であることが大切でしょう。「誠実さと個性の両立」という魅力が未来に求められる店舗像なのではないでしょうか。


