スコープ販促創造研究所

「気温弾力性」で読み解く、天気と消費の方程式

「気温弾力性」で読み解く、天気と消費の方程式

この記事は約 - 分で読めます

家計調査×気象データ分析から見えた需要予測の一例として、気温1℃の変化が消費に与えるインパクトを定量化しました。

「明日は暑くなりそうだから、アイスを多めに発注しよう」「来週は急に気温が下がるから店頭の品揃えは……」——小売の現場では、当たり前のように行われている判断です。しかし、この「気温」と「消費」の関係を、定量的に捉えたことはあるでしょうか?

私たちは、気象庁の5年分の気温データと総務省「家計調査」のデータを突合させ「気温と消費の連動性がどれほど強いか、品目ごとに定量化」する分析を行いました。

この感応度指標を「気温弾力性(Temperature Elasticity)」と呼んでいきたいと思います。

気温弾力性とは何か

「気温弾力性」は、今回の分析にあたり独自に設定した指標です。経済学における「価格弾力性(価格が1%変化したときの需要の変動率)」の考え方を応用し、気温という外部変数に対して消費がどれだけ動くかを定量化しました。分析では2つの値を軸に整理しています。

◆分析の2つの重要指標

【気温弾力性(%/℃)】:気温に対する消費の「反応しやすさ」を品目間で比較する相対指標。数値が大きいほど、気温の変化に対して消費が強く連動する品目です。年間を通じた全気温帯の平均値のため、実際の変動は急増温度を超えた(あるいは、下回った)後にさらに大きくなります。

【消費急増温度】:消費が有意に跳ね上がり始める分岐点。販促・広告を仕掛けるべきタイミングの目安です。

気温弾力性の数値は、品目間の「気温への反応しやすさ」を比較するための相対指標です。天気予報で消費が本格的に動き始める急増温度(24℃)を超えると報じられた段階で、販促を仕掛けることが最もレバレッジの効く戦略といえます。

【夏型】気温上昇で消費が伸びる食品

気温が上がると消費が活発化する「夏型」商品の特徴は、「そのとき、すぐ欲しい」という衝動的購買の色が強いことです。アイスクリームやスポーツドリンクはまさにその典型で、気温の上昇と購買の衝動がほぼリアルタイムで連動しています。

弾力性の数値が最も大きかったのは「すいか」(+13.56%)ですが、これはすいかの年間平均消費額が小さいために数値が際立つ側面があります(詳細は表下の注を参照)。感応度の「安定性」を示す相関係数で見ると最も高いのは「なす」(0.84)で、旬が気温の上昇と完全に重なります。19℃を超えると消費が急増し、陳列切り替えのタイミングを「体感」ではなく「気温の閾値」で設計できる根拠として機能します。

アイスクリームは弾力性+4.46%、急増温度は23℃——「アイスが食べたくなる気温」として、人々が23℃前後を境に行動を変えていることが数値に表れています。

※ すいかは年間平均消費額が小さいため弾力性の数値が大きく出る傾向があります。感応度の「安定性」は相関係数(0.71)で判断してください。

【冬型】気温低下で消費が伸びる食品

低気温で消費が増える「冬型」商品は、夏型とは購買行動の性質が異なります。かき(貝)やいちご、みかん、白菜といったランクイン品目を眺めると、「夕食で食べよう」「鍋にしよう」という、家に帰ってから消費することを前提とした計画的購買の色彩が強いことに気づきます。

今回の分析で冬型の最高感応度を示したのは「かき(貝)」(相関係数−0.72、弾力性−10.24%)です。9℃以下になると消費が急増します。いちご(−9.54%)、みかん(−8.41%)、白菜(−4.34%)、生しいたけ(−2.98%)と続き、気温低下が「鍋食材の買い物」を誘発していることが数値で裏づけられました。

◆この結果は「家計消費支出の項目の妙」

冬型ランキングに「肉まん」や「おでん」が見当たりませんが、これらは「売れていないから」ではありません。肉まんやおでんは、そもそも家計調査の調査品目として設定されていないのです。

つまり冬型の購買行動には、本分析が捉えている「家に帰ってから食べる計画的な購買」と、家計調査では見えにくい「寒いから今すぐ食べたい衝動的な購買」の2層が存在します。この分析を起点に、自社のPOSデータと照合してみると、見えていなかった冬の需要の輪郭がより鮮明になるはずです。

気温別消費パターン

下図は各品目の気温帯別平均消費額です。夏型(上段)・冬型(下段)それぞれの連動パターンが視覚的に確認できます。

図:高弾力性品目の気温帯別平均消費額(2021年1月〜2026年1月)

販促・在庫計画への活用

1、需要予測の優先順位づけ

「来週は急増温度(24℃)を超える予報」という情報が、「スポーツドリンクの需要が立ち上がる週」という具体的な仮説に変わります。根拠のある数字は、発注判断のスピードと精度を同時に高めます。

2、広告・販促タイミングの最適化

消費急増温度の直前に投資を集中させることが、最も費用対効果の高い動き方です。需要が立ち上がってから動くのではなく、立ち上がる前に仕込む——「先手の販促」を、気象予報をトリガーとして設計できます。

3、棚割り・物流計画の根拠化

「8℃を下回った週に鍋フェアを設定する」「11℃以下でいちごの需要が立ち上がる」という知見は、担当者の体感による意思決定を、気温という客観的な閾値に置き換えます。

まとめ

「気温」は、だれでも無料で参照できる外部データです。日々の天気予報を需要予測の根拠として活かす余地は、まだ大きく残されています。本分析が示すように、気温と消費の連動は品目ごとに明確なパターンを持っており、「急増温度」という閾値を知るだけで、販促・発注の意思決定は感覚から数値へと一段階変わります。感覚に頼った発注・販促から、数値を根拠にした先手の意思決定へ——気温弾力性の知見が、その変化の起点になれば幸いです。

分析手法について

Data & Methodology

気温データ:気象庁の長期観測15地点(網走・根室・寿都・山形・石巻・伏木・飯田・銚子・境・彦根・宮崎・多度津・名瀬・石垣島)の日別平均気温の単純平均を「全国平均気温」として採用。

消費データ:総務省「家計調査」二人以上世帯の日次支出データ(2021年1月〜2026年1月)。e-Stat経由で公開されている月次Excelファイルを集計しています。

弾力性の算出:各品目について気温との単回帰分析を行い、回帰係数(円/℃)を期間平均支出額で除して標準化した変動率を算出。相関係数の絶対値が0.3以上の品目を「気温感応性が高い」品目として分析対象としています。

 

© Innovative Promotion Lab by SCOPE, All Rights Reserved.

※本情報の引用・転載時には、必ず当社クレジットを明記いただけますようお願い致します。

トップへ戻る