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地政学リスクに強い店づくりを考える――後押しするのは、生活者の「誇り」 中編|「日本の食」を経営のレバレッジに
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前編では、「ナフサショック」を通じて、値下げや代替提案だけでは企業も生活者も疲弊しかねないこと、そして必要なものが無理のない形で手に入り続ける「供給が続く安心」について考えました。中編では、その安心を支える経営資産として、「日本の食」が持つ可能性を考えます。
4. 日本食という「国の資産」を経営のレバレッジにする
観光庁の「インバウンド消費動向調査」によると、訪日外国人旅行消費額は過去最高を更新し、その中で飲食費が大きな割合を占めています。日本の食文化が、訪日の動機や旅行中の消費を支える重要な要素になっていることが分かります。
日本の食文化は、全国一律の単一スタイルではなく、各地域の風土や歴史に根ざした多様な食文化の積み重ねとして形作られてきました。地域ごとの食材や料理、行事食の一つひとつが重なり合ったものが、今、世界から「日本食」として評価されているといえます。
ここで強調したいのは、日本の食文化を他国と競い合う「優劣の物差し」として捉えるのではなく、世界にある多様な食文化の一つとして、国内外の人々に選ばれ続ける「開かれた資産」として捉える視点です。海外の料理や食材が日本の食卓を豊かにしてきた歴史もまた、私たちの食文化を形作る要素の一つです。その相互作用の中で、日本各地の食が磨かれ、いまの「日本の食」へと育ってきたといえるでしょう。
この「日本の食」という無形資産が指すのは、料理そのものだけではありません。産地ごとの多様な食材や、それを育てる生産者、だしや発酵文化に代表される調理法、器や盛り付け、季節や行事と結びついた食卓のしつらえ、そして箸使いや「いただきます」「ごちそうさま」といった所作までを含む、総体としての「食のスタイル」です。
訪日客にとって魅力的な日本の食体験も、こうした日常の食文化が地域で受け継がれ、磨かれてきた延長線上にあるはずです。日々の食卓を支える基盤があるからこそ、外食や地域での食体験も、「わざわざ訪れて味わいたい価値」として選ばれていると考えられます。
インバウンドの観光消費、日本食や関連商品の輸出、日本食レストランやテーブルウェアの海外展開といった広がりも含め、日本の食文化全体の国際的な希少価値を高めることは、日本の経済的な安定や国際的なレジリエンスを支える重要な柱になり得ます。ただし、それは小売業だけで完結するものではありません。行政や生産現場、外食や観光など多様なプレーヤーとの連携のなかで、小売業が「生活者に最も近い入り口」として、どのような役割を果たせるかを考えることが重要です。
5. 生活者の誇りが「通いたくなる店舗」をつくる
こうした日本の食文化を、生活者と企業が共に支え、次世代につなぐことは、日本社会だけでなく、小売企業にとっても重要なブランド戦略になり得ます。
生活者は、「この商品を選ぶことが、地域の生産者や日本の伝統的な食文化を応援することにつながっている」と実感できるとき、自分の消費行動にささやかな誇りを感じるのではないでしょうか。日常的な選択を通じて、その誇りを実感できる場である小売店は、単に「安いから行く店」ではなく、「通うこと自体に意味がある店」「家族や友人に勧めたくなる店」として認識されるはずです。
ここで誤解していただきたくないのは、「日本の食文化を支える選択」とは、常に高価な国産品を選ぶことではないという点です。生活にはそれぞれの予算や事情があり、すべての人がいつもプレミアムな商品を選べるわけではありませんし、その必要もありません。
大切なのは、それぞれが無理のない範囲で、例えば、旬の国産品を選ぶ日を週に一度つくる、規格外品や地場野菜のコーナーを意識してのぞいてみる、といった小さな選択を通じて「自分も食文化を支えている」と実感できることです。今は参加する余裕がない人にとっても、「こうした取り組みをしている店がある」「いつかここで買いたい」と感じてもらえる選択肢が存在していることには、意味があります。
一つの方向性として、「日本の食文化を大切にする」という考え方を、一部の高価格帯商品だけに閉じ込めない売り場づくりが考えられます。同じ産地・同じ生産者の商品でも、規格外品や簡易包装の商品、少量パックなど、さまざまな価格帯の選択肢を用意することで、できるだけ多くの生活者が自分の予算に応じて無理なく参加できる仕組みをつくることができます。
日本のブランド力向上に資する食の価値を生活者と共に再構築し、その背景にある物語を丁寧に伝えることができれば、小売企業は、自社ブランドへの信頼や愛着を高め、価格以外の「選ばれる理由」を中長期的に積み上げることができると考えます。国のブランド強化と自社のブランド強化は、必ずしも同じスケールではありませんが、同じ方向を向くことはできるのです。
6. 「日本の食」で自社と地域と日本全体のレジリエンスを同時に高める
調達面での取り組みでは、仕入れ先企業を単に「入れ替える」のではなく、サプライチェーンそのものを共につくることが重要です。調達ルートの数だけを機械的に増やすのではなく、地域との関係や代替可能性を少しずつ育てていく。こうした動きは、社会的に望ましいだけでなく、企業にとっても供給リスクの低減や欠品回避、さらには価格決定力の回復につながる可能性があります。
例えば、特定の国や資材への依存度を棚単位で洗い出し、国産・地域産品への切り替え、産地・サプライヤーの複線化を少しずつ進めていくこと。規格外品や未利用資源を商品化し、売場の新しい定番として育てていくこと。これらは一見すると地道な対応ですが、見方を変えれば、供給の安定性を高めながら独自性のある商品戦略を構築する取り組みでもあります。
これらの取り組みを通じて日本の伝統的な食文化を守り育てることは、社会的責任であると同時に、その取り組みを誇りに感じる生活者が通いたくなる店舗をつくるための経営戦略でもあります。
もちろん、これだけで日本全体の経済構造を大きく変えられるわけではありません。エネルギーや基礎資材の輸入依存といったマクロな課題は、政策や産業全体の取り組みを組み合わせて考えることが重要ではないでしょうか。その上で、日常の食卓に最も近い事業者である小売業が、自らの本業を通じて地域の食と生産を支えることは、日本の経済的自立力を「足元から補強する」確かな一歩になり得ます。
後編では、こうした方向性を具体的な取り組みに落とし込む上で、商品(Product)、価格(Price)、チャネル(Place)、プロモーション(Promotion)といった観点を取り入れながら、「続いていく暮らし」を支えるブランド実践を考えます。
参考資料
後編へつづく


