スコープ販促創造研究所

買い物ストレスをゼロにし、最適解をサポートする。 「買い続けたくなる店」に求められる、売り場の販促設計とは【前編】

買い物ストレスをゼロにし、最適解をサポートする。 「買い続けたくなる店」に求められる、売り場の販促設計とは【前編】

(右から)
スコープ販促創造研究所 /今井 洋
スコープ販促創造研究所 /木賀 啓介
スコープ販促創造研究所 /多田みゆき

『販促会議』3月号に掲載された「ショッパーインサイト2026大予測」。 販促創研所長・多田みゆき、フェロー・木賀啓介、研究員・今井洋が、誌面の都合で触れられなかったトピックについて、改めて掘り下げました。誌面からこぼれ落ちた貴重なインサイトや、より詳細なトレンド予測についてお話しします。

リアル店舗だからこそ提供できる「幸せな買い物体験」とは

木賀:「買い物」は日常生活の中で必ず発生する行為です。例えば、夕食の材料を揃えたり、足りなくなった日用品を補給したり。必要に迫られて行う行為ではありますが、買い物が生活の起点となる行為であるからこそ、買い物自体が楽しいものになれば、その先にある目的も楽しいものになるでしょう。食材の調達で例えるなら、夕食の時間がよりおいしく、より楽しいものになる。それが、店舗ならではの役割であり、役立ち方です。もちろん、店舗だけではなくメーカーにもいえることで、生活者の幸福度に影響を与えている点を、それぞれが意識する必要があると思います。

スコープ販促創造研究所 /木賀 啓介

大手住宅設備メーカーで商品ブランド運営に約8年間従事後、様々なブランドの戦略を購買の最前線で実践したいと考え2002年にスコープ入社。菓子、嗜好飲料など大手メーカーや大手流通小売の販促戦略や企画を手掛ける。

多田:そうですね。私は、想定や期待を超えて得るものがあったときに人は買い物に楽しさを感じると思います。具体なシーンを挙げるなら、思っていた以上に買ってしまったけれどお得さを感じているだとか、新商品を見つけたときなど何かを発見したときの喜びやワクワク感、商品や店内装飾から季節の移り変わりを感じるといった気づきを得る楽しさのことです。その楽しさの後に「幸せ」が続いていくのではないでしょうか。  

スコープ販促創造研究所 /多田みゆき

1年間を52週に分け、データやトレンド分析に基づいた1週間ごとの販促を企画する“52週販促”企画を10年ほど担当し、大手流通小売のチラシ販促やメーカークライアント業務に携わる。近年は52週販促のスキームも用いながら、歳時ごとの市場動向予測を発信し、販売・購買両側からのモチベーション開発も行っている。

今井:多田さんのような意見もある一方で、献立を想定して計画通りに購入することができた、買い物を予算内に抑えることができた、衝動買いをしなかったといった面に満足と楽しさを感じる方もいます。買い物の幸せは人それぞれであり、店側が計画性を支援できると高い満足度につながるでしょう。ただ、店側からすると、こちら側の意見は売上を抑制するリスクにつながるため、一長一短でしょうけど。

スコープ販促創造研究所 /今井 洋

大手流通小売・メーカー・官公庁等様々なクライアントのマーケティングリサーチとプランニングを担当。近年はソーシャルデータを活用した生活者インサイト分析にも注力。

お店は「五感で感じる体験装置」に進化を遂げるべき!?

多田:買い物における楽しさの演出は、現状ではECサイトよりもリアル店舗に軍配が上がるかもしれません。まず、視界に入ってくる物量が圧倒的に異なります。ECでの検索ではピンポイントに結果が表示されるため、それ以外の商品やカテゴリーとの出会いが得られにくいです。検索結果に紐づいた関連性やレコメンドなども現在では精度が上がってきていますが、AIでは気づかない関連性、発展性はまだまだあるはず。「まったく関係ないけど気になったから買った」ということはリアル店舗だからこその強みに感じます。

木賀:そこを誘発しているのは五感でしょうね。匂い、音、視界に入る売り場の面積、それらを一度に感じることができるうえ、一つひとつのものの大きさの違いや、野菜や果物が並んでいるなど、リアルな五感から得る情報量はECサイトよりも圧倒的に多いです。五感で得た情報が一つの強い体験価値になりうると思います。      

多田:ECサイトに書かれている情報量も多いはずなんですけどね。テキストになっている情報からその商品が一番アピールしたいことを読み取れなかったり、リコメンド先のリンクまで見に行くのは面倒だなと思ったりしちゃいます。

今井:ECサイトは設計の意図が前面に出やすい、ということもあるかも。売り手、作り手の「こう見せたい」という意図が、うっすらと見ている人にも伝わってしまう。リアル店舗での買い物は、自分の目で見て触って、重さなども確かめているので、納得感を持って購入ができます。

木賀五感から訴えるもので楽しさに通じるものに、季節感がありますよね。例えば9月になっても気温が30度を超える真夏日が続く異常気象が当たり前になった今だからこそ、旬のものを楽しむ価値が高まっています。

多田:2025年の例でいうと、秋を代表する食のひとつ、サンマが例年より2週間ほど早く8月末や9月頭から店頭に並びました。店舗の販売担当者の話では、その後によく動いた商材は秋の味覚だったそうです。外気温は35度を超えるような時期であっても、サンマを食べたことで気分や味覚は秋に変わったのでしょう昨年の家計消費支出のデータを見ると、毎年9月後半頃まで消費のピークが続くサラダの材料が2週間ほど早めにピークアウトした様子もあり、売り場に並ぶ商材が、生活者の季節感を引っ張っていることが想定できます。

木賀:日本では「四季」や「旬」を、二十四節気や七十二候で認識でき、1年を通した生活にリズムを与えています。生活の中のイベントでもあるので、そこを訴求することはリアル店舗の役割ですよね。

今井:「今」「その時」の旬の提供も大切ですが、計画的に買い物をしたい層に対しては、いつぐらいになると旬のものが出てくるようになるといった情報を事前に提供するのも良いと思います。生活者はその情報を元に「次は、このメニューを作ろう」と考えることができ、予算内で旬のものを楽しめる献立作りが計画的に行えます。

多田:どちらの場合でも、売り場が季節感をリードする場として機能できる好例です。売り場をメディアと捉え、空間メディア化していくことが今後の動きになるでしょう。

店舗から「買い物のあらゆるストレスをなくす」方法は存在するのか

今井物価高が続く中、生活者は不安や不満を抱くことに慣れてしまい、諦観の状態にあることが当社アンケートからわかっています。主食である米に対しても、新米はおいしいけれど、そこへのこだわりは捨ててブレンド米などにシフトしている人が増えています。常態化した物価高に対するストレスは、現在は諦めることによって見えなくなっている状態です。

多田:その他のストレスとしては、売り場の再編に対して生活者が慣れていない点がありそうです。例えば冷凍食品ですが、以前はすべての冷凍食品は冷凍ケースが並ぶ売り場に集約されていました。しかし今は、精肉売り場に冷凍ケースがあり、冷凍肉が販売されています。冷凍のフライやシーフードミックスなども同様に鮮魚売り場にあり、店舗によっては冷凍野菜も青果売り場に陳列されています。物価高に対する防衛として価格が安定している冷凍食品への需要が高まった結果だと考えられます。

木賀:食品のカテゴリが変わってきていることもあるでしょう。冷凍の肉・魚・野菜が素材として違和感なく受け入れられている現在、保存の仕方が違うだけなので冷凍肉は精肉売り場に並ぶようになったということですね。個人的にはセルフレジに対するストレスも増えていると感じています。

多田:新しい機器や方法を躊躇する方は一定数いますよね。また、セルフレジへのストレスと一口に言っても、「このお店では出る時にレシートが必要」「このお店の店舗カードは事前にチャージが必要」「このお店は現金が使えないレジがある」など、モヤモヤの原因はさまざまです。

木賀:セルフレジの進化系として、自身の手元のスマホでスキャンしながら買い物ができるサービスも普及しつつあります。店側にとってはレジの人員を減らし、お客様のレジ待ちの不満を解消できる点がメリットですが、一方で衝動買いが減って売上が減少するという指摘もありますね。

多田:買い物かごに商品を入れる際に金額が表示され、合計金額がわかるので会計前に冷静になる時間があるんですよ。買い物が楽しいといろいろと購入したくなりますが、合計金額を見てやっぱり戻したり。生活者としては「あのお店では高い買い物をしないで済むから楽しい」と思う方もいますよね。

今井:当社で実施した過去の調査では、予算内に買い物を抑えるようになった人が4人に1人。衝動買いを抑えるようになった人は約20%。一度スキャンした商品を、合計金額を見て棚に戻すようになった人も16%います。金額が見えることで消費行動が抑制されるのは確かですが、計画的な買い物ができる満足度も同時に高まっています。

多田:生活防衛の視点では助かる一方で、それだけだと「予定になかった意外なものを買った」といった楽しさが減ってしまう面はありますね。

今井:店舗としては売上アップのために「あと一品」を訴求したいものです。しかし、そこを訴求しすぎると、計画的な買い物に満足度を抱いている層にストレスがかかってしまいます。店舗に対するマイナスイメージにもつながります。

木賀:生成AIが登場しDXが進むと、売り場の近くに来たら「これがありますよ」とクロスMD的なレコメンドをする仕組みが可能です。しかし、レコメンドしすぎると、それはスパムになってしまうしね。

多田:最適なレコメンドには、嗜好も頻度も、パーソナライズ化を強めることが必要だと思います。そこには個人個人のパートナーとなっている生成AIを頼りたいところ。生活者個人が育てた・個人を熟知した生成AIが店舗からの訴求を参照してくれたら理想的ですよね。 少し形は違いますが、当社が提供している「コトタグ」も店舗で個人がAIと対話するかたちで最適なリコメンドができるようになっています。一方的な訴求ではなく、対話型のコミュニケーションが今後の販促の中でより重要になっていくでしょう。    

【後編へ続く】

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