春節とは、中国や中華圏での旧暦の正月のこと。中国では西暦の正月よりも盛大に祝われます。
実は春節自体は単日の祝日なのですが、日本の年末年始と同じように、春節当日を含む数日間を国ごとに連休として設定しています。太陰暦に基づくため春節の日付は毎年異なり、2025年は1月29日。2024年は2月10日、2026年は2月17日ですから、今年は少し早めに春節期間がやってきます。
2025年の各国の連休は、最長が中国台湾の9日間。最短は韓国の3連休ですが、金曜日を1日休むと6連休が可能な日周りになっています。
2025年春節の動向予測 訪日客の楽しみ方変化で、小売の常識も変化の時代へ
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2024年の日本へのインバウンド観光は、コロナ禍前の2019年を上回るペースで回復しています。
日本政府観光局(JNTO)の推計によると、2024年の訪日外国人旅行者数は3500万人、旅行消費額が8兆円と過去最高になる見通しです。政府は、2030年には訪日客数6000万人、旅行消費額15兆円を達成する目標を掲げていますが、目標達成の中で大きな影響力を持ちそうなのが、アジア圏からの訪日動向です。
今回は、2025年の「春節」の消費動向の予測とともに、今後のインバウンド消費全体の課題・チャンスについて考察していきたいと思います。
■2025年は少し早めの春節スタート
■2024年の春節 訪日客数は韓国、消費額は中国がトップ
春節があった今年の2月の訪日客は278万人を超え、過去最高となりました。
しかし、韓国・台湾からの旅行者が大幅に増加したのに対して、中国は19年比36.5%減と、23年8月に日本への団体旅行が解禁された後も、期待されていたほど増加しませんでした。19年時には訪日客全体の3分の1を占めていた中国からの訪日客の割合は、今では2割以下となっており、韓国の半分ほどです。
その一方で、消費額では中国がトップ。24年1月~3月に3,574億円を消費し、韓国の1.5倍近くとなりました。
中国の消費力は大きく、仮に、中国からの訪日客が韓国・台湾と同じように増加していたら、消費額は今の2倍ほどにもなっていたかもしれません。
春節以外の期間でも、中国は消費を大きく伸ばしています。
■コスメが牽引する訪日消費。消費傾向は「モノ➡コト」「量➡質」へ
大きな消費力を持つ中国からの訪日客は、日本で何にお金をかけているのでしょうか。
以前には、“中国人訪日客の爆買い”という消費行動が話題になりましたが、2024年版の「観光白書」によれば、中国・韓国からの訪日客はテーマパークへの支出が多くなっています。娯楽を中心に、「食」「遊」「癒」の体験消費を含むコト消費が成長している様子が見られます。
また、観光庁の「訪日外国人消費動向調査」からは、中国は他国と比べて、コスメや電気製品の購入率・購入者単価が高いことが分かりました。高単価な時計・貴金属類の購入者単価も、平均と比べて2倍・3倍も高くなっています。買い物は、今でも中国人旅行客の大きな目的の一つのようです。中でも、コスメ購入は今後も増加すると予想されますが、最近では、日本での店舗のうち、
「@COSME TOKYO」のような多種類から選ぶ体験、
銀座百貨店でのカウンセリング体験(=似合うものを知る体験)
といった「個人の最適を見つける」 体験を経た購入プロセスが、特に支持されています。“爆買い”の頃とは買い物行動が変化し、丁寧で上質な接客を求める層が増加している様子もあります。今後もその傾向は継続するものと思われます。
■春節時期の売り方と提案
春節時期の中国人旅行客(訪日に限らない)のうち、約6割が女性、そして9割は45歳以下の若年世代という、Mafengwo(中国最大旅行メディア)の報告もあります。また、NOVARCA(日系企業の中国市場参入を支援する企業)によると、中国SNSのREDでは、日本に関連する投稿キーワードの中で「コーディネート」といったファッション関連のものが伸長しているとのこと。日本のファッション誌風撮影がブームとなるなど、現代日本風スタイル全体へ関心が広がっているようです。
こういった日本風スタイルを好む若い女性が訪日客のメイン層となってくるにあたり、「多数の選択肢から自分に似合うものを選べる」コスメやファッションの売場を構築することは欠かせない取り組みとなるでしょう。続く展開としては、「自分に必要な機能で選択したうえで、さらに多種類のカラーやデザインから選べる」美容家電、「日本の若者らしいスタイルでの撮影が楽しめる」撮影スタジオ…といった、チャンスカテゴリーを拡大させた提案が支持されていくと考えられます。
■店舗でも観光体験価値をアップするべき
訪日客向けに限らず、小売全体が売場での体験を重視する中で、「日本ならではの売場、日本ならではの購買体験」は訪日旅行の大きな目的になっていくはずです。日本人にとっては見慣れた、自動販売機やカプセルトイの機械 がずらっと並ぶような売り場も、ある意味では日本らしいのかもしれませんね。
また、小売体験の新たなトレンドとしてヒントとなりそうなのが、「Grocery Store Tourism」という、“海外旅行時に、現地のスーパーマーケットを訪れて、その購買体験を動画でSNSに投稿する”楽しみ方をするZ世代が欧米を中心に増えていることです。
文化的な体験のみならず、品揃えによって現地の食トレンドや政治的背景が見えるといい、その国を見るという点で面白いとのこと。日本についても、業務スーパーの商品ラインナップや、コンビニでなんでも買える(野菜も!)といった様子が何本も投稿されています。まだ現地を訪れていない人たちが家にいながら「疑似体験」し、ここに行こう・これを買おうとリサーチする使われ方が想像できますし、ある意味、スーパーマーケットが「観光地化」しているとも言えそうです。
そこで気になったのが、観光スポットとは違い、日本の小売現場には「撮影禁止」の表示が多い、ということです。
恐らく、明らかな訪日客が店内撮影をしていても見逃す店舗は多いとは思うのですが、一般客が拡散し話題化してくれるチャンスがある今、「撮影禁止」ではなく、「撮影OK」「投稿OK」の売り場を設けてみるというのは、新たなチャンスの一つになるかもしれません。
■訪日客だけじゃない!在日の方に向けた春節対応も
また、 春節では、訪日客向けだけではなく、日本に住む在留アジア人の方向けの施策を展開することも効果的だと考えます。
たとえばこの時期、本場で食べられているメニューでの「ガチ中華」フェアや、「中国韓国台湾グルメフェア」のように、1か国ではなく数か国連動させて通常よりも幅広い品ぞろえとメニュー提案で大きなフェアとして展開するといったやり方です。
アジア雑貨や食品、コスメを展開する当社運営の小売店munitでは、今年10月の国慶節の際に「ちまき」を販売し(国慶節にはちまきを食べる習わし)、非常に好調な売れ行きとなりました。
ちなみに、春節の習慣では、地方によって習慣が異なり、香港では海老、中国北方では餃子、東アジアでは年糕(ネンコウ)という餅、他に春巻きや、湯円(タンエン)というスイーツを食べるところもあるそうです。
訪日客に向けた「日本らしさ」と、在留者向けの「現地らしさ」。
双方からの体験から、アプローチを検討してみてはいかがでしょうか。
■インバウンド対策の課題をサポートする企業も続々
先述したmunitでは、日常的に中国版SNSにも投稿するなど、海外に向けた情報発信をし、春節時にもさまざまなキャンペーンを展開しました。店舗には中国や韓国出身のスタッフもおり、言葉や展開アイデアのサポートを得ています。
訪日客売上を達成するのはなかなか困難なものですが、インバウンドマーケティング・企画展開について相談できる会社も続々と増えてきました。
当社でも、インバウンドプロモーション事業をバックアップする、「INBOUND CROSS」という取り組みを始めました。春節に限らず、課題をお持ちの方は、どうぞご相談ください。