スコープ販促創造研究所

イヤホンの選ばれ方から学ぶ、 効果的な商品戦略とマーケティングコミュニケーションのヒント

イヤホンの選ばれ方から学ぶ、 効果的な商品戦略とマーケティングコミュニケーションのヒント

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ワイヤレスイヤホン・ヘッドホンが登場してから約10年が経過し、日常の風景も変わりました。しかし、街行く人の耳に注目してみるとワイヤレスタイプが普及した今でも有線タイプを使っている人がまだまだたくさんいることに気が付きました。一方で、家電量販店のイヤホン売り場を見てみると、ワイヤレス製品は売り場が広く販促物も充実しているのに対し、有線製品は売り場が少なく販促物も控えめでそれぞれの商品の良さが伝わりにくい印象です。
技術の進化とは裏腹に、なぜ多くの人々は有線を選ぶのでしょうか?その背景には、単なる機能の選択以上に、モノの選び方や価値観、ライフスタイルが反映されている様子が見えてきました。
そこで私たちは週に1回以上イヤホンを使用している20代から60代の男女を対象にイヤホンの使用状況に関する調査を実施しました。2024年7月10日から7日間に渡るWebアンケートを通じて、消費者がどのような基準で製品を選び、どのような価値を求めているのかを深掘りすることで、幅広い商品やサービスに適用可能なマーケティング戦略のヒントを考えてみたいと思います。

■実際は、有線タイプとワイヤレスタイプ利用者数に大きな差はない

ワイヤレスイヤホンと有線イヤホンの使用率

全体の66.5%の人がワイヤレスタイプを「現在使用している」と回答していますが、有線タイプの使用者も60.4%と高い割合で存在しており、有線タイプとワイヤレスタイプの両方を使っている人も、全体の32.6%存在していることがわかりました。

さらに、「以前は使用していたが、現在は使用していない」と回答した人の中で、ワイヤレスタイプは17.0%、有線タイプは34.9%と、ワイヤレスタイプの登場が一部の有線タイプの使用を置き換えたことが考えられます。

年代別使用率を見てみると、有線タイプは10代が約5割なのに対し60代は約7割とかなり顕著な差がみられました。ワイヤレスタイプは若年層から、有線タイプは中高年層から好まれやすい傾向にあるようです。

このように、有線タイプの利用者も依然として多いことから、市場での存在感はまだまだ大きく、有線タイプのイヤホンが持つ独自の価値や利点が消費者には評価されているのだと思われます。

■ワイヤレスタイプは通勤時に、有線タイプは自宅でのリラックス時間に使用

ワイヤレスと有線イヤホンの使用するタイミングと聴くコンテンツ

使用するタイミングについて聞いてみたところ、ワイヤレスタイプでは通勤時での使用が40%を超え、効率よくコンテンツを楽しむ現代人の生活スタイルがうかがえる結果となりました。

一方で、有線タイプでは自宅でリラックスタイムでの使用が多く、特にヘッドホン型で67.5%の高い使用率がみられています。また、勉強・作業中での使用も目立っており、ケーブルによる行動制限が集中力の高まりと外部からの干渉のない環境による高い没入感を求めるユーザーに適していると考えられます。

また、聴いているコンテンツについても、ワイヤレスユーザーは主に音楽やオンライン動画を楽しんでいることが多い一方で、有線ユーザーは主に自宅でリラックスしながら音楽、ゲーム、ラジオを楽しむ傾向にあるようです。

この傾向を踏まえると、「両持ち両使い」の提案はユーザーにとって非常に魅力的な選択肢であり、毎日の生活がより充実するでしょう。売り手にとっても、製品をシーンに応じて提案することで顧客満足度が向上し、結果として顧客ロイヤルティを高めることが期待できます。さらに、多様なライフスタイルに適応する製品ラインナップが市場の活性化を促すのではないでしょうか。

■音質に対する評価は、若年層ではワイヤレス、中高年層では有線のほうが良いという認識

性年代別の音質に対する評価

イヤホンユーザーにワイヤレスタイプと有線タイプの音質について尋ねた結果、若年層ではワイヤレスタイプの音質を好む一方で、中高年層は有線タイプの音質を高く評価する結果となりました。

また、購入時の重要要因として「価格」と「音質」が両方のユーザーにとって重視されていることがわかりました。このことから、有線タイプの音質に対する評価が高くない若年層に対し、試聴体験などの取り組みで音質に対する理解を深めてもらい音質に対する認識を変えていく必要があると考えます。

さらに、年代別ワイヤレスタイプ・有線タイプの使用率と音質に対する捉え方の違いを踏まえると、若年層に対するアプローチは音質の訴求に加え利用シーンの提案や若年層の価値観に合わせた訴求などのも必要です。

■有線タイプが選ばれる、使われるためにはケーブルの不快感を解消しなくてはならない

お中元。お歳暮で「サステナブルなギフト」を贈った相手の価値観・関心事

有線イヤホンを使っていない理由をユーザーに聞いたところ、ケーブルの絡まりが44.4%で回答が最も多く最大の障壁になっていることがわかりました。次いで断線のリスクや運動時のケーブルの不便さが25%以上を占める結果となりました。この様な不快感に対処するため、例えば、ケーブルを簡単にきれいに収納するアイテムとセット販売したり、ケーブル収納術を発信したりすることでケーブルの不快感を軽減し、有線イヤホンを現代のライフスタイルに浸透させていくことが出来るのではないかと考えます。

また、自由回答の声から有線タイプには「ノイズキャンセリング機能がない」という回答がありました。実際には有線タイプにもノイズキャンセリング機能が装備されているにも関わらず、有線イヤホンの魅力や利点を消費者に正しく認識されていない実態が見えました。このことから、有線タイプの魅力や利点など情報の発信を強化していく必要があります。

■有線イヤホンの販売拡大のヒントは「レトロ」と「ファッション」

タイプ別イヤホン・ヘッドホンの見た目に対する印象やイメージ

イヤホンの見た目に対する印象やイメージについて聞いてみたところ、

ワイヤレスタイプでは「かっこいい」という印象が強く31.1%の支持を獲得しているほか、「スポーティ」や「洗練された」、「ファッショナブル」などカッコよさにつながるような回答を1割以上集めました。

反対に、有線タイプはケーブルによる接続の「安心感」が26.2%の支持を獲得しており、さらに「レトロ」な印象を持たれる傾向にあるようです。新しいテクノロジーを搭載したワイヤレスタイプと比較して有線タイプはどこか懐かしいイメージが定着しているように感じます。

また、購入時にデザインや装着時のイメージがどれだけ影響するか有線ユーザーに尋ねた結果、59.2%がこれらの要素が購入決定に影響すると回答しました。しかし、ファッションアイテムとしての認識はまだ限定的で、具体的には32.9%に留まっています。これは、有線イヤホンのデザインがまだ潜在的な魅力を十分に発揮していないことを表しています。

「レトロ」な魅力を前面に出した有線イヤホンの提案は、特に若年層を中心に人気の平成レトロブームやY2Kファッションと相性が良いと思われます。例えば、平成のヒット曲と連動したマーケティングキャンペーンや、ファッションアイテムとしての有線イヤホンを前面に出した販売戦略が、新たな顧客層を引き寄せ、市場に新しい活気をもたらす可能性があると考えます。

★今回の気付き・ラーニング

今回の調査を通じて、イヤホンの選択が音質といった単に技術的な特性に基づくものに限らず、消費者の多様なライフスタイルや個々の価値観に深く根ざしていることが明らかになりました。これは単なるイヤホン市場に留まらず、広範囲にわたる製品やサービスに適用可能であると思います。

 

生活スタイルやシーンなどユーザーの活動に応じた機能や使い方、楽しみ方の強調やカスタマイズ可能な設定を前面に出すことで、商品は消費者にとって自然と想起されるような存在になれれば、ターゲット市場に深く響く戦略を展開することができるでしょう。これを実現するためにも、ソーシャルデータや口コミといったVOC(Voice of Customer)データを活用し、消費者のニーズに応じた新たな可能性や方向性を模索することが不可欠です。

 

また、現在のトレンドを背景に、「レトロ」というキーワードや「ファッション」という視点からアプローチすることも、ただ古き良きデザインを取り入れる以上の意味を持ち、消費者が商品をどのように感じ、どのように関与するかを形作る要因であり、マーケティング戦略や商品開発において無視できない要素です。それはイヤホンのように目に見える形のものに限らず、“昔ながらの製法で作った食品”といったものでも、それを価値として押し出すことで消費者が商品をどのように見るかを変えることで、購入意欲を高めることができると思います。

いずれのポイントも今に始まったものではありませんが、改めてこれらの視点を意識して商品開発や販促コミュニケーションを最適化することが、商品カテゴリーの活性化のポイントになるのではないでしょうか。

この調査が皆さまの企画のヒントに少しでもお役立ちできたら幸いです。

■調査方法:ウェブ調査

■調査エリア:全国

■調査対象者:20歳~69歳男女  ・未既婚の指定、既婚者の子ども有無の条件無し

・週1回以上イヤホン・ヘッドホンをしている

■サンプル数: 本調査 合計671サンプル

■調査期間:2024年7月10日(水)~16日(火)

■株式会社ジャストシステムが運営するモニターサイト『Fastask』の登録会員を対象に調査を実施

※本情報の引用・転載時には、必ず当社クレジットを明記いただけますようお願い致します。

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