スーパーのPOPやチラシの情動的な言葉を教師データとし、リアルな買い物での消費者の購買意欲を喚起させる。それが新たなレコメンドアルゴリズム「コトタグ®」。2024年11月5日にローンチしたこのサービスは、Lighthouse代表取締役の針生 亮汰さん(以下、針生)とデータサイエンティストでリベルクラフト代表取締役の三好 大悟さん(以下、三好)、スコープ販促創造研究所研究員の大岩 將人(以下、大岩)を中心に開発しました。生成AIにはどのような新しい可能性があるのか。その思想や目指すゴールが重なったという三人が、生成AIの発展的な活用と買い物の未来について語りました。
<後編> 生成AIはやがて情動的な領域まで進化する。 「コトタグ®」が目指す未来の“買い物のあるべき姿”とは
- 対談・インタビュー

(右から)
株式会社リベルクラフト 代表取締役 Founder/CEO 三好 大悟さん
Lighthouse株式会社 代表取締役 針生 亮汰さん
スコープ販促創造研究所 研究員 大岩 將人
豊かに生きることにコミット 生成AIが関わる領域とは

「コトタグ®」とは
食品スーパーでの買い物のうち、消費者の約7割以上が非計画購買であることに注目し、その非計画購買が楽しいものになれば、日々の買い物も楽しいエンターテインメントに変わるはず……という考えのもとに作られたのが、新たなレコメンドアルゴリズムである「コトタグ®」。スコープで過去に蓄積されたスーパーのチラシやPOPといったアナログメディアのデータを構造化することで、単純な商品レコメンドではなく、食卓でのシーンや潜在的なニーズを提案するような仕組みで、消費者が売り場で考えを巡らせながら新しい商品と出会う楽しさを感じられるように設計した。
生成AIの歩みと未来。社会にどう浸透していくのか。
大岩:前編で針生さんは「コトタグ®」に関わるまで、小売業界とお仕事のつながりがなかったとおっしゃっていましたが、現在はリテール業界ともお仕事をされていますよね。お二人が様々な企業と生成AIに関する開発やプロジェクトに関わるなかで感じている日本のAI、生成AIの歩みや現状についてお話しいただけますか?
三好:生成AIの歴史という観点でいうと、最初に自然言語処理として、生成AIの原型ができてきたのは2012年ぐらいですね。その頃行われていたのはテキスト分析で、「日本語の文章を単語ごとに分解し、単語同士の類似度を検出する」みたいなところから始まっていました。その当時は「兄」と「弟」、「犬」と「猫」という似たような単語をどう理解するのかみたいなレベルで、文章を作るなんてことはまったくできない状態でした。あれから10年で、人間が使いそうな言葉を用いて、文章を話せるレベルになってきました。

株式会社リベルクラフト 代表取締役 Founder/CEO 三好 大悟さん
慶應義塾大学卒業後、スタートアップ、株式会社セブン&アイ・ホールディングスにて、AI・データ活用の推進に貢献。株式会社リベルクラフトを設立し、AIやデータサイエンスなどデータ活用領域に関する受託開発・コンサルティング、法人研修、教育事業を展開。主な著書に、「統計学の基礎から学ぶExcelデータ分析の全知識」「自然言語処理&画像解析 “生成AI”を生み出す技術」など。
三好:現在生成AIの研究で進んでいるのは、ChatGPTに代表されるようなLLMを活用し、秘書や気の利いた後輩のような「生成AIのエージェント的な振る舞い」をさせることです。何かを頼むと、必要なタスクを生成AIが自分で定義して、タスクをやってくれる。細々したことをやってくれる秘書的な存在である生成AIが、やがて一人1台搭載されていく。今後は今回の「コトタグ®」のように、自分の「気持ち」や「状態」を理解したうえで、最適解を提案してくれたり、生成AI自ら代行してくれたりするようになるんじゃないでしょうか。
針生:生成AI絡みでいろいろな企業からご相談をいただきますが、Lighthouseでは生成AIの活用を三段階で定義しています。レベル1は生成AIを使って作業レベルの業務改善をするレベル。社内のデータを読み込ませて、業務改革の段階を上げるのがレベル2。レベル3になると、新しいサービスやビジネスモデル自体を作る高度なレベルになってきます。これって、DXの概念に近いですよね。現状、生成AIの社内活用に取り組んでいている企業はまだまだ少数派ですが、取り組めていてもレベル1〜2がほとんどです。「やっぱりウチは紙文化」という企業さんもたくさんいらっしゃいます。

Lighthouse株式会社 代表取締役 針生 亮汰さん
NTTドコモに入社後、新規事業開発や利用促進業務に従事。その後NTTデータ経営研究所にて、戦略・業務・IT領域のコンサルタントとして、事業戦略策定、BPR、新組織立上げ等を支援。学生時代にアルバイトしていたPatagonia社(アウトドア衣料品メーカー)の経営哲学に影響を受け、Lighthouse株式会社を設立。生成AI活用型新規事業共創、AIコンサルティング、AIソリューション開発事業を展開。サプライチェーン領域を中心として様々な業界に特化した生成AI型新規事業開発を手掛ける。
針生:今後、生成AIは「人の苦痛を減らして、楽しさを増幅する存在」になっていくんじゃないでしょうか。実際、「コトタグ®」は買い物の楽しさを増幅させることと、商品選びに困っている人の苦痛を減らす両面がありますよね。領域としては、私生活での広がりはもちろん、私自身は企業や社会にどんどん生成AIを実装していくところを進めていきたいです。実は先日、工場を持っている会社さんから、単純作業の連続で、せっかく入った従業員が辞めてしまったというお話を伺いました。人間が本来しんどいと感じるものは、機械に代わってもらった方が適切な場合もあると思うんです。人間はもっと自由に楽しいことができる。そのような目的で生成AIは作られていると思いますので、どんどんそういった方向性に進んでいくと思います。
大岩:針生さんが「人はもっと自由で楽しいことができる」とおっしゃっていましたが、私も今後の生成AIは「どのように豊かに生きるか」「精神的な健康と肉体的な健康」など、より良く生きる方向でAIが使われていくと思います。AIが人間に直接作用するのではなく、より良い人生が送れるためのインフラとして、AIが社会すべてに実装されるような感じになる気がしています。だから、実生活において、人間はあんまりAIの存在に気づかない。AIの実装もおそらく「根源的に豊かな生活をしたい」とか、「楽しい毎日を送りたい」というマインドにどんどん切り替わってくるはずです。

スコープ販促創造研究所 研究員/大岩 將人
小売やメーカーの販促企画・制作、システム構築を現場で経験。スコープ入社後、現在はクリエイティブ部門の統括、リテールテック分野でのサービス開発、生成AIを活用したビジネスモデルの構築を行っている。新しくリリースされた「コトタグ®」の開発責任者。
大岩:その頃には生成AIはもう手段になっていて、日常のどこにでもある電気みたいな存在になるんだと思います。もはや生成AIがインフラとなった時、私たちが大事にするべきことは、何を目指すかということです。ゴールやコース選びを明確にする。そこをきちんと見ていけばいいのかなと思っています。
効率とは真逆の生成AIの使われ方
大岩:お二人からは前編でも「『コトタグ®』のプロジェクトに関われて、面白かった、楽しかった」とおっしゃっていただきましたけれど、実際に携わってみて、どんな風に感じられましたか。「コトタグ®」はアルゴリズムを使いながらも、消費者を惑わせる思想なんですよね。結局は無駄が面白いというか、技術を使って、効率的にさせない。非効率に買いまわるのが理想。針生さんは「『コトタグ®』に関わるまでレコメンド思想だった」とおっしゃっていましたが、私と針生さんはもともと持っている思想が反転しているだけなんで、最初からわかり合えましたよね?
針生:そうですね。真逆の思想だけど、大きな方向性は一緒でした。
大岩:だから、レコメンドの技術もわかっているLighthouseさんとはすぐに一緒にお仕事ができると思いましたね。そのなかで、人間が考える余地を残す仕組みを作ればいいわけですから。
三好:「コトタグ®」に参加できて嬉しかったのは、まずは知見がすごく溜まったこと。そして「生成AI=Chatbot」ではない新たな視点ができて、生成AIの存在意義を改めて捉え直せたことですね。Chatは最初にクエスチョンがあって、アンサーが出てくる形です。でも「コトタグ®」は、明確なクエスチョンがありません。「お客さんの気分」というフワフワしたあるようでないようなところに対して、生成AIが「コトタグ®」のデータを使って、「あなたは今、こんな気持なんじゃないの?」とニュアンス的なものを出してくる。それをお客さんが見て「そうかも!」と思ったら、気持ちを反映した商品をオススメしてくる。だから「コトタグ®」はChatbotと性質がまた異なった特徴を持っていて、面白いんですよね。
大岩:生成AIが使える概念って、無限じゃないですか。だから最初はどうしても「効率」という結果の出やすいところから、生成AIの取り組みがなされたと思うんです。でも今回の「コトタグ®」って、現段階での生成AIの活用の仕方でいうと、一番端っこぐらいのところに着手しているんですよね。スコープとしても、お二人にとっても、生成AIの新しい活用の仕方として、新しいお客さんに提示できる案件になりましたか?
三好・針生:いや、本当にそうです。
大岩:生成AIを情動とか感性といった方面まで手を伸ばす。そういったサービスって、意外と今後はウケると思うんですよね。

三人が考える「コトタグ®」の今後、買い物の未来
大岩:「コトタグ®」はまだローンチしたばかりでまだまだ完成形ではありませんが、お二人は「コトタグ®」の今後、買い物の未来について、どんな風に感じていますか?
三好:「コトタグ®」の今後も買い物の未来も、おそらく同じような感じになっていくんだと思います。「コトタグ®」はプロダクトでもありソリューションでもあるので、まずはたくさん使っていただいて、ヒットしていくと一番嬉しいですよね。先ほど、針生さんが「生成AIは人の苦痛を減らして、楽しさを増幅する存在になる」とおっしゃっていましたが、私もやっぱり買い物の未来として今後は「楽しさ(プラス)を増幅する」方向に進んでほしいと思います。生まれてきてから30年ぐらいしか経っていませんが、買い物体験自体は時が進んでも、劇的に変わることはないんじゃないでしょうか。
大岩:そうですね。
三好:これまでの買い物体験におけるITの活用というのは、主に「負の解消」が目的であることが多かったかなと思います。例えば、「買ったものが何かわかる」「リアルタイム連携されることによって、在庫がすぐにわかる」。でもやっぱり負の解消だけじゃ面白くないから、プラスの部分を増幅させれば、もっと買い物は楽しくなる。それが「コトタグ®」の話ともつながると思うんですが、買い物を楽しみたい気持ちをフワッと後押ししてほしいんですよね。
三好:例えば「昨日飲みすぎちゃって、ダイエットをしなきゃいけないんだけど、おいしいものは食べたい……」みたいな。「鶏ムネ肉とブロッコリーだけなのは、ちょっと嫌だ」みたいな気持ち。コレ、私のことなんですけど(笑)。そんな時に「商品Aはこういう成分要素でPFCバランスが良くて、それでいて、しかも結構おいしいです」といったことを、AIエージェント的な存在が教えてくれたら、AIと対話しながら買えるので、すごく面白そうですよね。未来は、買い物や飲食の楽しみみたいなものが増幅される世界になっていくことを期待したいです。
針生:私が最初に「コトタグ®」の構想を聞いた時に感じたのは、ふるさと納税のサイトに並ぶ商品でした。例えばりんごを選ぶにしても、サイトには大量のりんごが載っているわけですよね。良いりんごも悪いりんごもあるのに、見た目の写真ではまったくその差がわかりません。でも口コミを見ると、どれが良いりんごなのか自ずとわかるわけです。これはふるさと納税のサイトでも、コスメのサイトでも、Googleマップやサイトでの飲食店レビューも同じことですよね? 物の善し悪しは、口コミという大量の非構造化データに隠されている。それらのデータをうまく整理して、商品の良さを今よりももっと上手に人に伝えられるような技術に発展させていきたい。個人的にはそんな風に感じています。
大岩:「コトタグ®」は、皆さんに楽しい買い物体験をしてもらいたくて作ったサービスです。買い物はそもそも楽しいものなのに、多くの企業が消費者の気持ちに手を付けなかったのは、楽しさが定量的に評価されなかったからなんですよね。
針生:なるほど。
大岩:品ぞろえを一品でも多くする。価格を安くする。売り上げを上げる。これらは評価しやすいので、定量的な評価がずっとあるんだと思います。でも今後は、「買い物をして楽しいと感じる気持ち」と「このお店を好きになる気持ち」の一致なども定量的に測れるようになってくると、私は思っているんですね。
三好・針生:なるほど。
大岩:スーパーは、非計画購買の人が約7割といわれています。今後私が目指したいのは、地元のスーパーが無計画で行けるみんなの好きな店になるために「コトタグ®」を入れてもらうということです。「コトタグ®」のサービスを提供すると、「お買い物の楽しさの増幅とお店のロイヤリティとの関係値を構築できる」といったことが証明できると、また違った販促やプロモーション、お店との新たなコミュニケーションも図れるのではないでしょうか。今後は「コトタグ®」のサービスをきっかけに、売り上げ価値の再定義みたいなことを提案していこうと思っています。価値の再定義をして、お店とお客さんが楽しくなる。そこに技術を応用していく。そうすれば、どんどん人間は豊かな方向に向かっていく。だからどこよりも先に、豊かさに関するAI活用をやろうと思っていますし、「コトタグ®」もそんな方向性で歩んでいきたいです。
◆展示会情報~スーパーマーケット・トレードショー 東芝テックブース内にて、共創パートナーとして、スコープとLighthouseが「コトタグ®」を出展します~
2月12日~14日に幕張メッセで開催される「SMTS2025(スーパーマーケット・トレードショー)」で「コトタグ®」をお試し・ご商談いただけます。
会場にお越しの際には東芝テックブース(幕張メッセ 4ホール 小間番号4-108)にぜひお立ち寄りください。
ご来場をお待ち申し上げております。
※スーパーマーケット・トレードショー(SMTS)は、スーパーマーケットを中心とする食品流通業界に最新情報を発信する商談展示会です。事前登録をしてご来場ください。