スコープ販促創造研究所

<第1回>2025年の食のトレンドを9つのキーワードから徹底解説! 生活者は料理の「プロセス」を大切にする一方で調理に疲れている?

<第1回>2025年の食のトレンドを9つのキーワードから徹底解説! 生活者は料理の「プロセス」を大切にする一方で調理に疲れている?

右:ひめこカンパニー 代表取締役 山下智子さん
左:スコープ販促研究所所長 多田 みゆき

生活者のリアルな声を求めて

2024年秋に始動したスコープ販促創造研究所。時代とともに移り変わる生活者の「買い物行動」を研究し、さまざまな分野の専門家の方々と話し合いながら、未来の販促企画の創造を目指しています。今回は、スコープに食に関するトレンド情報を提供くださっている、ひめこカンパニーの代表取締役の山下智子さんをお迎えしました。今後、小売が準備しておくべきことや、予測される次の販促チャンスを探るべく、スコープ販促創造研究所所長・多田みゆきが、自身も一人の生活者として山下さんと対談を繰り広げていきます。山下さんがご用意くださった食のトレンド9つのトピックのうち、第1回では「プロパ志向」「Wシニア市場」「調理休活」の3つの注目ワードについてお届けします。

「タイパ」は昭和から続くニーズ。次に来るのは……

多田:今回は食トレンドのエキスパートである山下さんに来ていただきました。弊社(株式会社スコープ)もひめこカンパニー様から食に関する情報を長くご提供いただいております。社内向けにセミナーも毎年開催していただいたり…もう何年くらいですかね?

山下:もう10年は越えていますよね。

多田:毎年すごい情報量で!販促企画を立てる際、頼らせてもらっています。

ひめこカンパニー 代表取締役 山下智子さん

1988年、食業界のコンサルティングファーム「株式会社ひめこカンパニー」を設立、代表取締役に就任。女子栄養大学客員教授。

多田:本日は山下さんと2025年度の『食市場のトレンド』についてお話しさせていただければ。今回はおもに9つのトピックをご用意くださっているんですよね。  

スコープ販促創造研究所所長/多田 みゆき

2006年、スコープ入社後、大手流通小売のオムニチャネル事業のほか、店頭催事販促の業務に従事した後、企画部門に異動。1年間を52週に分け、データやトレンド分析に基づいた1週間ごとの販促を企画する“52週販促”企画を10年ほど担当し、大手流通小売のチラシ販促やメーカークライアント業務に携わる。近年は52週販促のスキームも用いながら、歳時ごとの市場動向予測を発信し、販売・購買両側からのモチベーション開発も行っている。

山下:はい。当社は毎年、その年のトレンドを予測する「キーワード」を打ち出しています。今日は2025年のトレンドキーワードのうち、選りすぐりの9つをご用意しました。最初にキーワードからお伝えすると、①「プロパ志向」②「Wシニア市場」③「調理休活」④「冷活&辛活」⑤「冷食新時代」⑥「スープ食」⑦「五感消費」⑧「ウェルパ志向」⑨「安エコ」がポイントになるのではと思っています。これだけではよくわからないと思うので、順に解説していきますね。

①プロパ志向 -調理のプロセスを楽しむ‐

山下「プロパ」は当社がつくった「プロセスパフォーマンス」の略語です。最近、コスパ(=コストパフォーマンス)、タイパ(=タイムパフォーマンス)など、「◯◯パ」という言葉が非常に多いですよね。とりわけ、近頃は時短を意味するタイパがメディアを賑わしています。でも、実は「時短」「簡便」って昭和の時代からずっと言われてきたことなのです。当時の主婦向けの雑誌をめくってみても「奥様、このレシピはすぐにできて、簡単ですよ」とあちこちで謳われています。近年は、ますます時短が進化して、そのころにはなかったミールキットもありますし、冷凍食品もとてもおいしくなっていますね。

多田:冷凍技術の進歩は、目を見張るものがありますよね。

山下:それだけ、ずっとタイパが注目されてきたんです。ところが、新型コロナウイルスによるパンデミックが発生しました。おうちにいる時間がぐんと長くなった。すると「今までつくったことのないメニューに挑戦してみようかな」と思う人が増えたんです。

多田:たしかに、私も少し凝ったメニューをつくったりしました。

山下:ストウブの鍋や熱伝導のいいスキレットみたいな、ワンランク上のアイテムを買う人も増加しましたよね。で、コロナ禍が落ち着いて、会社に戻るようになったら「やっぱり簡便がいいな」って、またタイパが意識されるようになったの。それでも、一度工夫して料理をした経験があるから、心のどこかに「もう少し手をかけたい」という思いが、生活者の中にはあって……。

多田:そこで2022年、山下さんは「ひと手間」まではいかない「0.5手間」というキーワードを打ち出されましたよね。

山下:そうなんです。一度時短に戻ったのだけど「やっぱり、もう少し手間暇をかけておいしくしたい」「栄養を摂れるようにしたい」「見栄えをよくしたい」というニーズがあるんです。生活者は、「せっかく料理をするのなら、どこかに満足感がほしい」と思っているんですよね。

多田:わかる気がします。

山下:これまでなら、調理をする際に電子レンジで温めるだけで料理ができちゃう商品が選ばれる可能性が高かったのですけれど。今後はそれに加えて、レンジでチンするよりも時間はかかったとしても、生活者に満足感を得てもらえるような「プロセスを用意できる商品」がトレンドになると感じています。

多田:生活者は「有意義な時間を過ごした」「自分の手でおいしくできた」というふうに思いたいということですよね。具体的には、どのような商品が挙げられますか?  

山下:最近だと、理研ビタミンさんが出した「パッとジュッと®」が、ものすごくニーズを満たしていると思いますね。

多田:鶏肉に下味をつけて、冷凍できる商品ですね。下味冷凍のための調味料というのは新しいし、しかも、解凍不要で凍ったまま焼けちゃうというのが素晴らしい!  

山下この商品のマーケティングが上手だと思うポイントが、ほら、スーパーで安いときにお肉を買い込むのはいいんだけど、買ってきた大量のお肉をどう使うか迷いません?自分で下味をつけて冷凍するにしても、唐揚げにするのか、タンドリーチキンにするのか……。

多田:わかります!スーパーでたくさん買い物をして、ただでさえヘトヘトなのに、帰ってきて未来の献立まで考えるのって面倒ですよね。しかも、自分で下味をつけるとなると、メニューがワンパターンになりがちで。

山下「料理で嫌いな過程」についてアンケートをとると、「献立を考えること」と「買い物すること」は必ず入りますね。 それと、買ってきたお肉をどう扱うか決めきれなくて、結局「ま、いいか」ってパックのまま冷凍しちゃったりしない?(笑)  

多田:私、結構やっちゃってますね(笑)。それで、しばらく経って、冷凍庫の奥底からすっかり冷凍焼けしたお肉を発掘して焦ったり。

山下:夕食に使おうと思って、朝、出勤前に冷凍庫から冷蔵庫に移しておいたのに、仕事から帰ってくると「まだ溶けきってない!」ってがっかりしたりね(笑)。 でも、「パッとジュッと®」みたいな商品なら、メニューを悩まなくてもいいし、冷凍状態のまま加熱できる。下味をもみ込んだり、フライパンで焼いたりと過程も楽しめる。特売のお肉を使えば経済的だから「自分って賢い」って思えるし。

多田:いろんな味付けを試すことができれば、料理のレパートリーも広がりますしね。

山下:解凍いらずで火にかけられると言えば、セブンプレミアムの「クックイック」シリーズも非常に話題になっています。第一弾で出た鍋シリーズは、自分で野菜などの材料を追加できるカスタマイズ性があって、まさにプロセスを楽しんでいる感じ。

多田:面倒で難しいところは省いて、「料理してるな」感を得られますね。最近、パンも発売されていて、おうちで焼き立てパンが食べられるのはかなり満足感があります。

山下:ほかにも、味の素さんの「パスタキューブ®」も秀逸ですよね。パスタの別茹で不要で、一つのフライパンで本格的なパスタができちゃう。

多田ワンパンパスタ自体は流行っていましたけど、こういった調味料の形で商品化されたことに驚きました。これだけで本当に味が決まるのかなって、とても気になったのを覚えています。やってみたいってすぐにお店に探しに行って。  

山下「実験してみたい」「おもしろそう」って好奇心を刺激するような工程も立派なプロセスですよね。今後、こんな商品がどんどん伸びていくと思います。  

②Wシニア市場 -「新人類」層がシニアに突入

多田:続いてのキーワードは「Wシニア市場」。こちらについてはいかがでしょうか。

山下:令和時代では、一般的に「新人類」と呼ばれている1955〜1964年生まれの人たちもシニア層に突入します。今後は、すでにシニアになっている団塊の世代と、新人類世代という二つの世代、つまり「Wシニア」に向けて、異なるマーケティングが要求されるでしょう。シニア層と一言で表現しにくくなるかもしれませんね。

多田:新人類世代の方々にはどのような消費特徴があるのでしょうか。

山下バブルを経験しているということもあり、消費に積極的ですね。あと、健康に対する意識が高くて、筋トレに励んだり、タンパク質を積極的に摂取したりする人も多い印象です。手軽に利用できるトレーニングジムも、ものすごく高齢者が増えていると聞きます。

多田:美容に対する意識も高い世代なのでは?

山下:そうなんです。メンズスキンケア化粧品「VARON」はこの世代にも流行ってますよね。こういった背景から、高タンパク食品や美容に特化した食品は、ますます需要が生まれると言えます。 今年の1月には、日本ハムさんが鶏肉を米粒状に加工した「鶏米」を発表しましたね。  

多田:お米に混ぜて炊くことで、ご飯と一緒にタンパク質を摂取できる商品ですよね。気になっていました。

山下欧米と比べて、日本人は栄養をサプリメントからでなく食品から摂りたい人が多いと言われています。なので、こういった食品も、過度なエッジを立たせないと言いますか、日常の食生活に取り入れやすいことがポイントになると思います。

多田:なるほど。「普通の食事よりは、こちらのほうがタンパク質が多いんだな」くらいに思ってもらうのが理想ですね。

③調理休活 ‐調理をポジティブに休む‐

山下個人的に、浸透してほしいなと思うのが「調理休活」というキーワードです。評論家の樋口恵子さんが、仕事にも定年退職があるように、調理にも定年があってもいいのではということで「調理定年」という言葉を提案されています。具体的には、年齢を重ねたら“手作り主義”をほどほどにして、外食やテイクアウト、スーパーのお惣菜などを上手に取り入れながら、必要な栄養を摂りましょうということです。これは、現役世代にも当てはまると考えていて。定年というとキッパリ辞めてしまう感じだけど、ときどき休む休活って表現の方が気軽でいいかな、と。多田さんも、疲れていて「今日は料理したくないなぁ」って思う日、ありませんか?

多田:もう、しょっちゅうですね(笑)。

山下:今は男性も料理をする人が増えているし、これは全年代の誰にでもあてはまると思うんです。ハンガリーのことわざで、漫画からドラマ化されて話題になった「逃げるは恥だが役に立つ」という言葉の通りで、実は逃げることが最善の策につながることだってある。 だって、疲れて帰ってきて、不機嫌な顔で料理をして、家族に八つ当たりなんかしちゃって暗〜い雰囲気で食卓を囲むくらいなら、もうお惣菜を買ってきたほうがいい。

多田:そう思います。「調理を休んでいい」「楽をしていい」と思えるポジティブな後押しは、みんなが求めているのでは。

山下:料理は本来楽しくて、クリエイティブなことなんだから。それが嫌になるくらいなら、思いきって休んでほしい。小売店としても、こうした販促を頑張って盛り上げていただきたいですね。そうすれば、生活者みんなが、罪悪感なく休みたいときに休めますから。

多田少し休憩したら、「今日は頑張ろう」と思える日も出てきそうです。そうしたら、また「プロパ志向」のように、調理そのもののプロセスを楽しんだり、大切にできたりしますよね。

山下:その通り!いいことを言うね。そうしたら、改めて家庭の味のよさもわかるしね。

第2回「ついに焼き魚も「飲む」時代に!?」へ続く

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