スコープ販促創造研究所

<第2回>ついに焼き魚も「飲む」時代に!? 2025年の食のトレンドを9つのキーワードから考察

<第2回>ついに焼き魚も「飲む」時代に!? 2025年の食のトレンドを9つのキーワードから考察

右:ひめこカンパニー 代表取締役 山下智子さん
左:スコープ販促研究所所長 多田 みゆき

今、生活者は何を求めているのか?

2025年の商機に向けて、小売は何を準備しておけばいいのか――。食に関するトレンドをつかむべく、ひめこカンパニーの代表取締役の山下智子さんと、スコープ販促創造研究所所長・多田みゆきが、一生活者の視点でライフスタイルや食生活にまつわる対談を行いました。山下さんが発信する食のトレンド9つのキーワードのうち、第2回では「冷活&辛活」「冷食新時代」「スープ食」をもとに2025年の食の流行を探っていきます。

④ 冷活&辛活 ‐酷暑を乗りきる食ニーズ‐

山下:2025年、特に夏にブームが来そうだと感じているのが「冷活&辛活(からかつ)」 です。近頃、夏は本当に暑いですよね。地球が沸騰しちゃっている。

多田:昨年もものすごく暑かったですが、今年も猛暑になるという見通しが既に出ていますね。今から考えるだけで、ゾッとします。食品に限らず、体温を下げるグッズも年を追うごとに増えている印象です。

山下:少しでも暑さをやわらげてくれるアイテムは、ますます重要が高まると言えます。

多田:食べ物に関しても、やはり暑いときには冷たいものを食べて、少しでも涼みたいって思いますよね。

ひめこカンパニー 代表取締役 山下智子さん

1988年、食業界のコンサルティングファーム「株式会社ひめこカンパニー」を設立、代表取締役に就任。女子栄養大学客員教授。

山下:加工食品でも、いろんな会社が冷やし麺を出していますね。まずは「冷活」からお伝えすると、近頃はこの「冷活」が進化していて。これまで温かいのが当たり前だと思っていた食べ物を、あえて冷たい状態で提供しているところが出てきているんです。たとえば、豚 汁定食専門店の「ごちとん」さん。昨年は期間限定で氷を入れて提供する「麦味噌の冷やし豚汁定食」を出していました。

多田:豚汁が冷たいのは新鮮ですね!

山下:宮崎の郷土料理「冷や汁」をアレンジしたものらしいの。あとは、青果物流のフードサプライが営業する「肉野菜炒め ベジ郎」さんは、「冷やし野菜炒め」を発表していました。 ほかにも、人気ラーメン店「ソラノイロ」さんは、夏の間は「中華そば」などの定番メニューをお休みして、「冷やしベジソバ」などの冷やしメニューだけに絞って営業していました。期間中は、のれんも「ナツノイロ」にしていたのだとか。

多田:遊び心がありますね。

山下:冷たいメニューだけ提供するとなれば、お店側からすると、エアコン代や水道光熱費が抑えられていいかもしれないですよね。

スコープ販促創造研究所所長/多田 みゆき

2006年、スコープ入社後、大手流通小売のオムニチャネル事業のほか、店頭催事販促の業務に従事した後、企画部門に異動。1年間を52週に分け、データやトレンド分析に基づいた1週間ごとの販促を企画する“52週販促”企画を10年ほど担当し、大手流通小売のチラシ販促やメーカークライアント業務に携わる。近年は52週販促のスキームも用いながら、歳時ごとの市場動向予測を発信し、販売・購買両側からのモチベーション開発も行っている。

多田:お客様にとってはもちろん、お店にとってもメリットが大きいのかもしれませんね。ところで、「冷活」はよく理解できたのですが、「辛活」もあるということで…要は、辛い(からい)ものっていうことですよね? 辛いものを食べると逆に暑くなって冷活とは逆のようにも思えますが…

山下:辛い料理に使われるカプサイシンは発汗作用があるので、「体温を下げたい」という理にはかなっているんですよね。 しかも、今スパイスブームが起きています。スパイスカレー店も増えていますし、スパイスを多用したレトルト食品もたくさん出ていますよね。スパイスカレーに限らず、熱いものとスパイスの親和性は高いので、掛け合わせればいろんな商品が考えられると思います。

多田:韓国料理も流行っているので、そのあたりと組み合わせてもいいかもしれませんね。

山下:スパイスブームって、実は、売り手側からすると商品開発にあまりお金がかけられないときにありがたいんですよね。。たとえば、「いいお肉を使おう」と思ったら原材料費がぐんと上がっちゃうけど、「使用しているスパイスを12種類から36種類にしました」って言ったら、商品開発にかかる費用を抑えながら、市場価格も上げられる。

多田:確かに、スパイスが足された分、価値が足されるというか、少しリッチな感じがあるかもしれません。

山下:そんな事情もあってか、不況のときはたくさんのスパイス商品が開発されて流行る傾向が見えますね。

⑤ 冷食新時代 -生活者インサイトを反映して進化‐

多田:続いてのキーワードは「冷食新時代」ですね。

山下:前編でも少しお話ししましたが、最近の冷凍食品の進歩はめざましいですね。一方で、日本の冷蔵庫の冷凍スペースはそれほど大きくないから、最近は冷凍庫だけを買い足す人も増えているんです。家電量販店にも、新たに冷凍庫専用の売り場ができているくらい。

多田:実は、我が家も冷凍庫を買い足したんですよ。

山下:もう一つ冷凍庫があると便利でしょう?

多田:もはや、これがなかったらどうやって暮らすんだろうって感じです。買い足したのに、冷凍庫はいつもパンパンです……。

山下:だって今、いろんな冷凍食品があるもんね。冷凍庫に、生のお肉や魚を冷凍するのはもちろん、凍った状態で売られている冷凍食材の選択肢も多いよね。以前は冷凍できなかった葉物野菜や繊維が多い根菜、水分量の多い果物や豆腐とかも冷凍食材で手に入るから、買っておくといざというときに便利だし、ついつい買いすぎちゃう人は多いと思う。

多田:本当になんでもありますよね。

山下昔は「冷凍された野菜には栄養がない」なんて偏見もあったけれど、最近は生活者も知識がついてきて、そういった誤解もずいぶん減りました。冷凍食材は、とりたて・できたてを急速冷凍するから、実は栄養保持率は非常にいいんですよね。前編でお話しした「プロパ志向」にも通じて、「野菜を切るのは面倒だけど、フライパンで炒めるのが好き」なら、冷凍野菜をうまく使えばいいし。

多田:本当におっしゃる通りで。あと1品、ササっとつくれるおかずがほしいときとか、もうまな板と包丁を洗っちゃって、野菜を切りたくないときにすでにカットされている冷凍野菜はとても便利です。

山下:あと、最近、おかずとご飯がセットになったワンプレート冷凍食品も売れていますよね。

多田:以前と比べて種類も増えている気がします。

山下:ワンプレート冷凍食品って働き盛りの世代だけでなく、シニアの方にも人気なんです。たとえば、宅配弁当を頼むシニアは多いのだけど、一方で食べきれなかったり、決まった時間に受け取ったりするのを負担に思う人もいるの。でも、ワンプレート冷凍食品なら冷凍庫にストックしておけるし、電子レンジでチンするだけで気軽に食べられる。

多田:お弁当はメニューが決まっていますが、ワンプレート冷凍食品は何種類か保管しておけば、その日の気分に応じて自分で選ぶ楽しさもありますね。

山下:ほかには、生活者みんなが追加の冷凍庫を持っているわけではないから、味の素冷凍食品さんの「おべんとPONⓇ」みたいなスペパ商品も需要が高まってくると思います。

多田:あれ、いいですよね。一般的に、お弁当用の冷凍食品は形が崩れないようにプラスチックのトレイにのせられていますけど、「おべんとPONⓇ」はそういったトレイがないんですよね。なので、冷凍庫の中でかさばらないし、箸を使わなくても、袋から直接お弁当に盛り付けもできて。

山下:そうそう!生活者の中には、冷凍庫のスペース捻出のために、トレイにのった冷凍食品をわざわざジップロックのような保存袋に移し替える人もいるからね。「おべんとPONⓇ」のような商品を見ていると、食のトレンドは生活者の「気持ち」や「お困りごと」から生まれるんだなぁと、改めて思いますね。

⑥ スープ食 -あれもこれも、全部スープに!?-

山下:続いてのキーワードは「スープ食」ですね。コスパ、タイパ、そしてヘルシー志向と、生活者のあらゆる願いを一度に叶えるのが、「スープ食」なんです。

多田:最近、私の同僚の中にも、具だくさんのスープや味噌汁さえあれば他におかずは要らないという人がいて、スープの存在感が強くなっているのを感じます。 近年は秋になっても暑いですから、鍋をする期間が短くなって、スープが増えているというのもありそうです。

山下:「スープ食」の話をする前に、スープよりも先に流行った鍋料理からお話ししましょうか。鍋っていうのは、寄せ鍋、しゃぶしゃぶ、水炊きといろんなものがあるけれど、生活者が鍋を好んだのは、①献立を考えなくていい、②野菜をたくさん摂取できる、③冷蔵庫の片付けができる、④洗い物が少ない、といった理由があったの。ところが、忙しいと食材を買い集める余裕がなく、そもそも冷蔵庫の中がすかすかだったり、野菜をはじめ、物価がどんどん上がったりした結果……、

多田:タイパとコスパが重視され……、

山下:ついには豚肉と水菜だけ、みたいな一肉一野菜のシンプルな鍋が流行りました。

多田:白菜のミルフィーユ鍋や、スタンディングネギ鍋など、いろいろありますね。特定の材料を用意すれば良くて、買い物も作るのもラクです。

山下:でも、あるとき生活者は気づくわけ。「これじゃ、栄養が足りていないじゃない!」と。とはいえ、今、たくさんの野菜を買うのにはお金がかかる。そのような中、茅乃舎さんから「三種の野菜のすりおろし鍋」という商品が出ましたね。

多田:野菜のすりおろしが入った鍋の素ですね。これなら、たとえ具材が豚肉と水菜だけでも、ほかの野菜の栄養も一緒に摂ることができますね。

山下:野菜のうま味がしっかり出ているから、鍋のシメも楽しめるしね。

多田:なるほど、鍋のように、ひとつのスープの中にたくさんの具材やうま味、栄養が入っていて、食べごたえがあるのが「スープ食」なんですね。

山下:その通り。カゴメさんの「ごはんにかけるスープ」や、ヤマモリさんの「ごはんにかけるトムヤムスープ」も食べごたえがありますね。この二つは、ボルシチやトムヤムスープを文字通り、ご飯にかけちゃうんです。

多田:ご飯にかけてしまう提案になっているのが面白いですよね。 スープの具材を増量している商品もありますし、多くの生活者が1食完結型を求めているように感じます。

山下:エースコックさんは「飲む焼き魚」という商品を発売していましたよ。これは、お米やパンが入っているわけではないけれど、調理に手間のかかる魚をスープで手軽に味わうことができるんです。

多田:とうとう焼き魚も飲む時代になったのですね。ご飯と一緒に食べれば、まるで魚定食を食べた気分になれるかもしれません。

山下:ダイドードリンコさんはお米入り缶スープ飲料「鯛茶漬け風スープ」を出していますね。学校や職場、冬の工事現場に自販機を設置していますが、「小腹が空いた」「体をあたためたい」というときにぴったりだと思います。今後はますますいろんな「スープ食」が登場すると思いますよ。

第3回「うつろいゆく生活者の気持ち、小売はどう対処する?」へ続く

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