意味の変容を面白がれるか ―「大胆な誤読」と「仲介者」の存在―
- WRITER
- 森本 茉里子Mariko Morimoto
- 店頭プロモーションの企画・制作ディレクションを担当。
分野を横断しながら、領域を問わず価値を創造できることを目指して奮闘中。
夢追い人を描いた映画と顔はめパネルが好きです。
前回のコラムでは、いまのリバイバル市場では親世代の記憶や家族での共有体験が購買を大きく動かし、懐かしさが価値として受け止められている状況を見てきました。
この流れをさらに深掘りすると、単に“懐かしいものが戻ってくる”だけでは説明しきれない現象が見えてきます。それは、過去のコンテンツが新しい世代の手に渡ったときに、当時とは異なる受け取られ方が生まれているという点です。
世代別研究リバイバルコラム第二弾では、そうした現象の背景にある「意味の変容」に目を向け、企業がこの変化とどう向き合うべきかを考えていきます。
「大胆な誤読」の連鎖 ― 生活者の文脈で書き換えられる価値 ―
これまで企業が取り組んできたリバイバルは、「商品のアップデート」や「価値の再編集」が中心でした。機能を刷新し、現代向けにアレンジを加え、当時の文脈をあらためて説明する。こうした施策はいずれも、企業から消費者へ価値を届けるという供給者側の枠組みの中にあります。
しかし現在のリバイバルでは、商品のスペックそのものではなく、過去の価値が新しい世代によって思わぬ方向に解釈され、当時とは異なる意味へと変わっていくプロセスが重要になっています。こうした意味の変容に目を向けると、リバイバルの見え方が大きく変わってきます。
「意味の変容」を語る上で鍵となるのが、新世代による「大胆な誤読」です。
例えば“昔のデジカメ”。当時は「精緻な描写力」「正確な記録性」を競っていたはずのプロダクトが、今の若者には「不完全さが生むエモい描写」を楽しむツールへと塗り替えられ、新しいガジェットのように楽しまれています。そこには、当時の開発者が想定していた価値はほとんど残っていないかもしれません。しかし、この大胆な誤読をどのように受け入れ、その連鎖を設計できるか。それこそが、今後のリバイバルの成否を分けるポイントになるのではないかと思うのです。
連鎖をどのように設計するか ― 企業に求められる管理しすぎない姿勢 ―
この大胆な誤読の連鎖を設計しようとする際に、企業は2つの課題に直面するでしょう。
1つ目は「誤読を狙った余白」では、誤読は生まれないという問題です。
近年のマーケティングにおいて「意味に余白を残す」といった手法が語られてきましたが、現代の生活者、特に若い世代は企業の「狙い」を敏感に察知します。そのため企業が「自由に解釈してください」と用意した余白が “作為的な演出”として受け取られ、一気に魅力が半減してしまう恐れがあります。SNS時代の読み手の解像度は高いので、意図が透けて見えると自然発生的な誤読が起こりにくくなります。
重要なのは、誤読を狙って余白を設計することではなく“意味を完全に管理しようとしない姿勢”です。核心となる部分は守りつつも、周辺的な解釈は生活者の手に委ねる。企業が「意味の所有権を手放す覚悟」を持ったとき、初めて自然発生的な誤読が生まれ、新しい価値が生成されるのです。
価値を翻訳する「仲介者」の存在 ― 人間とアルゴリズムによる二重の橋渡し ―
2つ目は「仲介者」という不思議な橋渡し役の存在です。
「大胆な誤読」を観察していると、ある面白い存在に気づきます。
それは、とあるブランドやその商品に愛着を持つ経験者でもなければ、それらを全く知らない初心者でもない、その中間にいる「仲介者」たちです。 彼らは、プロダクトの当時を少しだけ知っていたり、あるいは文化的な背景を「知識」として持っていたりします。しかし、経験者のようにそのブランドに固執することはなく、今の感性で魅力を“翻訳”し、若い世代に伝わりやすい形へと“変換”する役割を果たします。
さらに現代では、人間だけが仲介者になるわけではありません。
TikTokやInstagramなどのアルゴリズムもまた、拡散されやすい記号を自動的に選び、新世代のタイムラインに表示する「デジタルの仲介者」として機能しています。
現代のリバイバルは、人間が文脈を語り、アルゴリズムが記号を選び拡散する。この「人間(文脈を語る仲介者)× アルゴリズム(記号を拡散する仲介者)」という二重構造によって駆動されています。企業は「どの世代を狙うか」よりも、この2種類の仲介者が「拾いやすい断片」をいかに用意できるかを考えるべき時代になっているのです。
リバイバルで意識するべきポイント
以上のことを踏まえて、企業がリバイバルを起こすときに意識すべきポイントを3つにまとめました。
- 1.「意味の変容」を前提にする
リバイバルを“商品の復刻”ではなく、
新世代による“意味の書き換え”と捉える。
- 2.意味の所有に固執しない
企業が価値の解釈を細かく管理しようとせず、
生活者の自然な再解釈を受け止める姿勢を持つ。
- 3.仲介者(人間×アルゴリズム)を理解する
「誰に売るか」の前に、
「誰が、何が、翻訳してくれるか」を考える。
この先、自社コンテンツをリバイバルさせたいと思ったときには、
上記のポイントを意識して実行してみてはいかがでしょうか。
今後、企業が「自分たちのブランドを使って、次はどんな新しい意味を作り出してくれるだろう?」と、生活者の誤読をワクワクしながら待てるようになれば、リバイバルは、過去の資産を延命させるための「一過性のブーム」ではなく、ブランドが未来へ生き続けるための「新陳代謝」という新たな役割を獲得していくのではないでしょうか。